は じ め に
肺炎の予防は、特に高齢者にとっては死亡率を低下させるのみならず、耐性菌対策としても非常に大切です。
肺炎球菌ワクチンが、この予防に貢献することが証明されており、近年わが国においても接種者が急速に増えてきております。
以下に、『肺炎球菌』 と 『肺炎球菌ワクチン』 について、説明します。
肺炎球菌について
わが国において肺炎は死亡原因の第4番目の疾病
日本人の死亡原因の順位は、癌・心臓病・脳卒中の順ですが、第4番目の原因は肺炎です。
肺炎の場合、医学の進歩により、全体としては減少してきていますが、65歳以上の人に限ってみますと、以前よりむしろ増加しています。
更に、肺炎の原因はいろいろありますが、一番多いのは肺炎球菌であり、全体の1/3 を越えています。
その後にインフルエンザ菌、マイコプラズマと続きます。
肺炎球菌による肺炎の特徴
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肺炎球菌の保持者
肺炎球菌は、健康な人の上気道に普通に存在する細菌、即ち、常在菌で抵抗力が落ちてくると活動を始めます。 しかし、『気管支炎や肺気腫などの慢性的な肺の病気がある人』、『生後4ヶ月から4歳までの子供の約半数』が、この菌を多く持っています。 大切なことは、例えば、肺気腫の人がインフルエンザにかかった場合、肺炎になりやすいことはよく知られています。 また、子供から高齢者に肺炎球菌が感染し、肺炎が起りやすいので、注意が必要です。 |
肺炎球菌ワクチンについて
予 防
肺炎球菌による肺炎は重症化することがあり、また耐性菌が多く、治療が困難なことがあるので、予防が大切です。 これには、うがい・手洗い・入浴・運動・規則正しい生活・インフルエンザにかからないことが基本的に大切なことですが、更に、肺炎球菌ワクチンの接種は、予防上、非常に重要であることがわかっています。 |
ワクチンの効果
ワクチンを接種した人と、しなかった人を比べると、『肺炎で重症化した人や死亡した人』は、接種した人が、しなかった人の半数以下となっています。
また、インフルエンザに罹患すると肺炎を起こしやすいことが知られていますが、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併せて接種すると、インフルエンザワクチン接種のみの場合と比べて、肺炎による死亡率が更に低下することがわかっています。
例えば、高齢で慢性の肺の病気を持っている人は、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種を併用すると、接種なしの死亡率を100%とすると、19%と抑えれるようです。
(ちなみに、インフルエンザワクチンだけでも、30%に抑えられる。〉
日本における肺炎球菌ワクチン接種の状況
高齢者を対象にした統計では、米国で50%、日本で1%弱ですが、最近、ワクチンの重要性が徐々に認識されてきているようです。
日本では肺炎球菌ワクチンを接種した人は、1998年では2,000人ほどでしたが、2002年には154,000人と増加しております。
これは、耐性菌対策には勿論、医療費削減に有効と思われます。
肺炎球菌ワクチンの接種を受けたほうが良い人
- 65歳以上の高齢者
- 慢性閉塞性肺疾患などの肺に基礎疾患を有する患者
(喫煙により肺気腫になった人・慢性気管支喘息を持っている人・過去に肺結核症を患った人・等)
- 糖尿病・慢性肝疾患などの免疫状態が低下している患者
- 脾臓を摘出した人 ・・・ 保険適用
ワクチン接種とその副反応、その他
ワクチンは、0.5ml を皮下または筋肉内に注射します。
副反応としては、何れも2〜3日でよくなります。
- その場所の発赤と軽い疼痛が、50%の人に現れます。
- 発熱・筋肉痛が、数%の人に現れます。
重い副反応は今のところ報告されていません。
これらの副反応は、50歳以上では比較的少ないとされており、高齢者に対する安全性も報告されています。
他のワクチン接種からあける間隔は、前回のワクチンがインフルエンザワクチンのように不活性化ワクチンの場合は、1週間以上間隔をあけます。(生ワクチンの場合は4週間以上です)
また、肺炎球菌ワクチンは、日本では一度しか受けられません。
有効期間は5〜8年です。
ワクチン接種の費用
ワクチン接種を希望する人は、かかりつけ医に相談してください。
費用は基本的には自費(7,000円程度)ですが、脾臓を摘出した人には保健適用があります。
現在はインフルエンザワクチンのように国の補助が受けられませんが、早くこのワクチンが国の補助を受けられ、多くの人が接種できるように望まれています。
参考文献
- きょうの健康(2003年10月号) 『肺炎球菌』 松本慶蔵
- きょうの健康(2001年11月号) 『抗生物質の効きにくい肺炎』 島田馨
- BIO Clinica 18 (2003年) 『肺炎球菌ワクチン』 放生雅章
2003年11月
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